赤灯地区とヌードルと
運河沿いの赤灯地区は奥の教会まで伸びていて
ある路地では奥に進むほどに肌の色が増してゆく
客のいる部屋はカーテンが閉められ
赤いカーテンと窓の間の物置台に
猫がいるのはできすぎた光景
警官が定期巡回しているので
ここはかえって安全な場所
勝手にマリアと呼んでいる窓の女性に手を振ると
マリアは「もうすぐ雨になるよ」と合図する
隣接した中華街の「福記」という店は
エッグヌードルが好評
今日は現金なら焼豚が払えず
カードなら焼豚が払える
現金を注文カウンターで支払って
窓際の席に座って雨を待つ
店は近所のアジア人や旅行者や
まったく不明な人々でいつも混んでいて
間違ったガイドブックを見てきたような
日本人の家族が所在なさげに
高価な品々を選んで並べている
知人のポルトガル人ホルヘがやってきて
ここに座っていいかと私にきき
焼飯とザーツァイが運ばれてくる
「エッグヌードルのスープを飲まないなら
オレにくれないか」と言うので
ボウルを押しやり席を立つ
雨が来た
運河も赤灯も中華街の看板も白くなって
もう何も見えない