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Time To Time 2011-2013 : 36-2
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洞 へ


昔、島で戦があって

谷あいの集落の全員が命を落とした

村人は自分の死が理解できず
今も地下で暮らしている

午後から夜にかけて雨が止むとき

低い声が谷間に響くのはそのためだ



民宿の主人に言われた

明日の朝
村の裏口の鍾乳洞に行ってみたらいいと

小さな洞の近くに大きな洞があるらしいと
地質学者は言うけれど

大きな洞の入口がまだみつからないのだと

夜明け時
小さな鍾乳洞の入口から出入りする半透明な人々

魚を持ち山菜を持ち 実直な姿で歩く
母親がこどもに何か言っているが
言葉の意味が分からない
人々は私に向かい 声を出さずに会釈する 
どうぞこちらへと手招きをする

ここに入ってはいけない
付いていってはいけない
急な驟雨が谷間に降りそそぐ

午後までここにいてはいけない



紫色の島は西方向に遠ざかり

島の上にだけ透けるように薄い青紫の

絹布のような雲がかかっている
私は自分のポケットに
方解石のかけらを見つけた
それは親指ほどの大きさで
夏の雨ほどの湿った匂いがした

Time To Time 2011-2013

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