HOME > 写真展 > Time To Time 1996-1998
Time To Time 1996-1998 : 36-26
前へ/Anterior
さようならアムステルダム


さようならアムステルダム
トーキョーに帰る日が決まった時に
馴染んだ町の光景が異国の影に沈んだ

私はこの国に魂を奪われたわけじゃない
影を背負ったような羊の群れや
鉛を含んで沈黙したような北の海は
私の心を不安にした
町に戻って黄色い市電に乗ったり
カーブに沿って運河沿いの道を歩いたり
ハンスやアネカと
カフェで話し込んだりしているうちに
この町の温度が内臓に染み渡り
私の魂は煉瓦の壁にそっと手を置いた

辞書を引いて最初に覚えたフレーズは
Ik houd van …(…が好き)
心魅かれた建物のスタイルが
アムステルダム・スクールだと知ったのは
ごく最近のこと

さようならアムステルダム
わずかな家財道具を船でトーキョーに送り
の荷箱に私の魂も半分詰めた
今頃は確信を持って東に向かう船のハッチで
途方にくれているに違いない
トーキョーという町が東京になるまで
いったいどのくらいの時間がかかるのだろう

残り半分の魂を小さく砕いて私はそっと置く
4番トラムの座席の隅や
修道院のマリア様の像の足元や
プリンセン運河に面したカフェの窓辺に
あの人とあの人の郵便受けにも
小さな透明な箱に入れて投げ込む
それはいつまでも気付かれないままに
青い燐光を放っているのだ

さようならアムステルダム
いつか全てのものが幻影となっても
私は夜の運河沿いの道を
蒼い影となって歩いている

 

36 - 26
前へ/Anterior
 intro.  1  2  3  4  5  6  7  8  9  10  11  12  13  14  15  16  17  18 
 19  20  21  22  23  24  25  26  27  28  29  30  31  32  33  34  35  36 
次へ/Siguiente

次へ/Siguiente

戻る