U字型の谷
氷河期にうU型に形成された
岩山の狭間の村へ行った
冬至には二時間しか陽が射さない村は
夏でも灰青色に淀んでいた
山の上から雪解け水が
垂直の滝となって流れているが
途中で飛沫になって
村をうっすらと湿らせていた
夜になって月が出た
ホテルの窓から山を登って行く灯を見た
「あれは何か」と尋ねる私に
「十一時二十五分発最終便のケーブルカーだ」と
ホテルの主人は答えた
「上にも村があるもんで」
大昔に氷河が溶けてから人々はずっと住んでいるのだと
主人はことなげに言った
U字型の谷に
滝はずっとずっと降り注ぎ
山の上の住人は
いつもいつも山の上の家に帰って行ったのだ
私がどこかで暮らしているように
私がどこかへ帰るように