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Time To Time 1989-1991 : 36-36
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猫が浮かんでた


退職の挨拶が終わった日の夜
次の日にならないうちに
ゆっくりお風呂にでも入ろうと
草津の湯という入浴剤を入れて
いつも通りに半分開いた風呂蓋の上に猫が座り
シャワーで髪を洗っていたのだ
シャワーの音で気付かなかったのだけれど
猫が浮かんでた
事体を正確に把握しなければと
妙に冷静な頭になってしまい
猫を草津の湯から抱き上げて
バスタオルで拭いてやったり
手足を揉んでやったり
人工呼吸の真似事もしたりしたのだが
湯気が消えて猫は時の向こうに冷えていった
ストーブの側で猫を抱いたままウトウトしたが
冬至過ぎの夜が明ける前に
植木鉢用のショベルと猫を持って
マンションの非常階段をそっと降りて
共同庭の人目のつかない所で
カツカツと堅い土を掘った
ダンボールに入った猫を埋め
もう一度部屋から取って来た
退職祝いに貰った蘭の花束と
猫がすきだったキウイーを供えて
最後の星が消える前に
突然の旅に出発した

Time To Time 1989-1991

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