東方の人々
坂道を下りて来る三人の人々
油を流したように黒く光る真夏の道を登る時
三人は登山のルールのように
道脇に逸れてわたしを通した
黄金を持った一人が言った
「お生まれになったそうです」
乳香を持った一人が言った
「今、行くところです」
没薬を持った一人が言った
「急がねばなりません」
三人は左に逸れる道を道なりに下って
鬼百合の咲いている門で姿を消した
三人は度々現れた
カフェのガラスの窓越しに挨拶を送ってきた
そしていつもの順で言うのだった
「お生まれになったそうです」
「今、行くところです」
「急がねばなりません」
三人はドアのチャイムを鳴らして過ぎることもあった
言葉と同じくらいの長さで
わたしの心のうちに静かな希望が広がっていった
青く深く
「お生まれになったそうです」
そして同時に
全ての女のうちに在る
その母の哀しさも体の隅まで広がっていった
「今、行くところです」
「急がねばなりません」
何処へ