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Time To Time 1993-1995 : 36-18
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大聖堂の在る町で


黄色い電車に乗って
大聖堂の在る町へ行った
それは秋の最後のような日で
町の向こうに虹が出ていた
大聖堂に入るわけでもなく
私はベンチに座っていた
旅行者を見るのは楽しかった
普段社会で地位を確立している人も
家で子供を叱っている人も
一様に不安そうで楽しそうな
旅に出た人の顔をしていて
風に飛ばされた帽子を追いかけたり
キャップの閉まったままのカメラで
写真を撮ったりしている

「こんにちは、どこから来たの?」
不意に聞かれて口ごもった
私はどこから来たのだろう
虹や大聖堂や付近のみやげもの屋が
こまごまにちぎれて風に舞った
「ねえ、どこから来てどこへ行くの?」
ベンチの隅に座った巻き毛の青年がまた聞いた
「分からない、ただ旅する人を見てるだけ」
青年は片目をつぶって見せた
「あなたは一生あなただし、
誰でも一生旅人だよ
それを確かめに来たんでしょう?」

モザイク画のように光景は収まり
私は一人でベンチに座っていた
虹はもう消えていて
大聖堂の入り口を飾る天使の石像のひとつを
私は穴のあくほど見つめた

Time To Time 1993-1995

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