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Time To Time 1993-1995 : 36-6
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ム セ オ


午後五時半に重い木の扉は開いて
まだまどろみと家庭のぬくもりにぼんやりしている職員は
まともに吹き込む潮の匂いと
観光客の雑多な匂いに
一歩二歩と後ずさりする
パティオに入る陽を防ぐために
屋根から屋根へ帆布が渡っているが
それが中の空気を淀ませている
「ここの土地の画家の絵を見せてください」
職員は真鍮の鍵で階上へ通じる扉を開ける
聖画や静物画や海洋画に混じって
ピカソの闘牛の絵も現れる
バルコニーから吹き抜けのパティオを見下ろすと
職員はナンバー1と向かいのナンバー3の部屋を
二度も三度も行ったり来たりしている
訪問者が巡礼のようにナンバー1の部屋へ入って行く
黄ばみがかった光の中で
これからの長い夜と生きていくことと
市立美術館の職員の帰って行く家とを同時に思い
口から魂を階下の格子模様の床に向かって吐く

Time To Time 1993-1995

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