その鳥
その鳥は
雪催いの空を保護色にして
灰青色の翼をひろげ
銀色の粒子を下界に撒く
粒子は雪となって
屋根や野原に舞い落ちる
その鳥が
最近現れた胸の十字に手をやると
北極の方を向いた部屋の老婆が
右手を胸に鏡台の前に座る
その鳥は知っている
もう少しでまるで遠くへ飛んでゆくことを
老婆は鏡のなかに
星を見ている
雪を見ている
海をみている
そのなかにともる灯を見ている
その鳥は庇の下の窓から
部屋の様子を見ている
もうすぐ海の底でいっしょになるのだと
海の底の青い遠い空で
窓が閉まっているのに
銀色の粒子のような雪が
部屋に舞い込む