壁
梅雨明け宣言の明くる朝
家の壁紙を総て張り替えることを思いたち
リフォーム業者に電話して
紙質と価格を比較し
最大限に妥協して
一ヵ月後の夏休み
家具の移動や壁紙剥がしを眺めていた
猫が三人の聖者のような作業員のひとりに
媚を売って離れない
猫と聖者を置きざりにして
タクシーで街に向かった
夕方戻ると
部屋は三部屋出来上がっていて
猫の影がくっきりと
真新しい壁に映っている
麦茶を飲みながら
明日の工程を確認して
聖者たちは帰っていった
猫と一緒に壁紙をみつめ
壁に映る骨格を確かめ
こんな風にして
夏休みを過ごした年があった
旅に出られないほど
病気だった