少し風が吹いていた 斜面に咲く花々は 風のとおりに体を揺らせた それは 戸棚に入れたまま忘れられた 古いタオルの花柄よりも もっと密やかな息づかい ホタルブクロ、キンバイ、コマクサ それは 人が名付けた呼び名で 花々には無関係なもの 山の主人が言った —あの花は木星の動きに左右され あの花は冥王星の位置を知っている 彼は天体望遠鏡と計算尺で もう三十年もデータ作りに励んでいた でも花々は素知らぬ顔で 夜明け前の風に体をまかせて ゆらゆら揺れているのだった