キノコの群生の向こうに 火力発電所の煙突が二本立っている 曇り空の煙突の赤い標示灯は モノクロフィルムにわざと色付けをしたように 情景に毒を与えた わたしは半コートのポケットから 箱入りのラスクを取り出して 一片を口に入れた ラスクの粉が喉に当たり 少し咳き込んでいるうちに 朝一番の旅客機が 煙突の上を斜めに昇って雲に隠れた 咳とともに涙がこぼれ落ち 旅客機のマークを確かめられもせず 赤い標示灯が涙に滲むうちに キノコは朝露をふるい落としながら 膝下までに背を伸ばしていた