訪 問 者
彼を見た時すべてが解った
彼は野に咲く黄色い水仙や
町でパンを買いに行く人々を見てきたが
地図に載ってない森の果てで
青く苦い泉の水を呑んできたのだと
彼は陽に焼けて深い皺の寄った顔をしていたが
陽に焼けていても蒼ざめているのが分かるのだった
そして彼の上着の裾を掴んで
黒いマントの従者が
腰をかがめたままでじっとしているのだ
扉を開けて彼を招き入れると
もう取り返しのつかない森の中の風が
部屋の中へ入ってきた
黒すぐりの酒を一杯呑んで
彼は夜気の中へ帰って行った
黒いマントの従者は
闇に溶けて流れて行った
そして私は生とも死ともつかない眠りを
三日間続け
四日目に目覚めて扉を閉じて町を離れた
黒いマントの従者が黙って先を歩いていた