最前の乗車専用ドアから入って来て 「広場へはこの市電でいいのか」と聞いた 通り過ぎて行くときに 湿った草原の匂いがした ターコイズブルーのコートを着た青年だったようだ 鏡越しに運転手が 目で私に合図を送った 広場で羊がゆっくり降りて行った 走り出した市電から見ると ターコイズブルーのコートが歩いていた 市電が左にカーブして 広場を回るように走るので もう一度見ると 濡れたように光る敷石の広場を 歩いて行く羊が見えた 誰もいない車両に まだ湿った匂いが残っている