花瓶を床に落としたのは 手が滑ったからではなくて 心が滑ったからだ 買ったばかりの白いフリージアが 水とともに四方に散らばり 白い曇りガラスの花瓶は ゴロゴロと取り留めなく転がって この世の境の向こうまで行ってしまった 心も水に乗って歪んだ床を滑り出し 壁の隙間にトロトロと流れて行った フリージアはしおれ 私はしおれ 陽は毎日正しい時間に部屋を照らし 滑った心の行先は私にすら分からない