スペインの雨
旅の終わりはいつもどしゃ降り
それは選んだ季節が悪いのかもしれないし
これ以上の旅を諦めさせようとする
何かの配慮かもしれないが
窓ガラスが割れそうな強い雨音を聞いているうちに
さっき買った革細工のベルトは
早くも菌類に覆われていて
青緑色に発光している
鞄に全てのものを詰め終わる頃
セバスチャンが
ルームサービスの熱いミルクティーを持って来て
「今度は私の国へ行ってください」と
スペインの住所を書いたメモをくれる
「母親に会ってくれるといいのだけど」
「グラシアス、セバスチャン」
雨の中を駅に向かいながら
スペインの雨を想像する
雨の中の黒い牛や
雨音に消えて行く
ラテン系の言葉を想像する
北国へ働きに出たセバスチャンと
異国から異国へ渡って行く
自分の上に降る雨は
どちらが重いかと思いつつ
鉄錆の匂いの湯気を頭から立てている
灯かりの点かない二等車に乗る