それは一夜の宿の扉でもなく 教会の鍵の掛かった扉でもなく ましてや友人の家の扉でもない それは時々キ先に現れて そして私は扉を叩いて言う 「開けて、どうぞ開けてください」
砂漠の青い夜の町や 北の針葉樹の森や 乾いたオレンジの匂いのする町で 扉は私を優しく拒絶し やがて私はその意味を悟る 「昨日までの思い出は 過去の骨董品のように古く それを私は扉で隠す」
私は扉に一礼して 靴の埃を払って また次の町へと旅を続ける 乾いたオレンジの匂いが体を包む