手を振るやす子
やす子が死んだ
最後に会ったのは六ヶ月前
偶然街で会ってお茶を飲んだ
どちらかといえば苦手な人だったが
一緒にバスで帰ろうと言うと
色々なものが見たいので
歩いて帰ると言った
バスの窓から見ると
やす子は長い髪を垂らし
かかとまでのベージュのコートで
ゆっくり歩いていた
互いに手を振った
やす子をきれいだと
初めて思った
あの日やす子が私に
「元気?」と聞かなかったのは
やす子の体がそうしたのだ
あの日やす子が歩いて帰ったのは
やす子の心がそうしたのだ
やす子はあの時知らなかったと思う
体や心は感じていても
理解はしていなかったと思う
それでやす子は陽だまりの中を
ゆっくりゆっくり歩きながら
私に向かって手を振ったのだ