家具も壁掛けも残っているのに 決別の意志がなぜか分かる家 電気も水道もしっかりと 元栓が締められていた ひとつだけ忘れられたこと 置時計は規則どおりに 時を刻んだ
その時計の音も止んだころ 冬が来て静寂が訪れた 前庭と家の中の違いは それでも庭は密やかに 息をしていたこと 家は息を潜めていたこと だから早春に 警察やら役所の係やらが やっとドアを開けた時 青く冷たい爆風が 家の中から 人々を吹き倒したのだ